僕らのままで


「波流…」

 呼び声がして、涼クンが近寄ってくる気配がした。

 身を固くしていると、彼は私の隣に立って、紅葉の葉をいじりだした。

 もう、ドライヤーで乾かしたTシャツを着ていたから、私は少しほっとした。

 これ以上ドキドキしたら、きっと…涼クンに、ばれちゃう…。


「綺麗だな」

 涼クンは、一枚の紅葉を目の高さに持ち上げた。


「うん」
 私も、同じことをした。


 目の前に、小さな紅葉がふたつ、並んだ。


「波流は、気にしてる?」
 突然、涼クンが聞いてきた。

「みんなの前で…あんなことして」

 私は、小さく首を振った。

「…気にしてないよ。びっくりしただけ」

「そっか。…なら、良かった」

 それから、再び沈黙の時間が訪れた。


 どうしてだろう。

 全然、会話が続かない。

 ここに来る前は、何の意識もせずに喋ってたのに…。


 今は、些細なことにも気持ちが揺れる。


 すごく、言葉を選んでしまう。

 だけど、沈黙は辛くて。

 何か喋んなきゃ、って必死になってる自分がいる。


 どうしよう。

 涼クンが隣にいるだけで、何だか息苦しい…


 苦しいよ…。


 ドキドキするよ…。


 堪らないくらい───


 
 助けて。
 もう、どうしたらいいか、全然わかんないよ…。
< 19 / 26 >

この作品をシェア

pagetop