僕らのままで
「波流…」
呼び声がして、涼クンが近寄ってくる気配がした。
身を固くしていると、彼は私の隣に立って、紅葉の葉をいじりだした。
もう、ドライヤーで乾かしたTシャツを着ていたから、私は少しほっとした。
これ以上ドキドキしたら、きっと…涼クンに、ばれちゃう…。
「綺麗だな」
涼クンは、一枚の紅葉を目の高さに持ち上げた。
「うん」
私も、同じことをした。
目の前に、小さな紅葉がふたつ、並んだ。
「波流は、気にしてる?」
突然、涼クンが聞いてきた。
「みんなの前で…あんなことして」
私は、小さく首を振った。
「…気にしてないよ。びっくりしただけ」
「そっか。…なら、良かった」
それから、再び沈黙の時間が訪れた。
どうしてだろう。
全然、会話が続かない。
ここに来る前は、何の意識もせずに喋ってたのに…。
今は、些細なことにも気持ちが揺れる。
すごく、言葉を選んでしまう。
だけど、沈黙は辛くて。
何か喋んなきゃ、って必死になってる自分がいる。
どうしよう。
涼クンが隣にいるだけで、何だか息苦しい…
苦しいよ…。
ドキドキするよ…。
堪らないくらい───
助けて。
もう、どうしたらいいか、全然わかんないよ…。