僕らのままで
バンガローの周りは、しん、と静まり返っていた。
肉やらジャガイモやらを抱えた仲間達は、みな唖然として僕と波流を見比べている。
「涼クン…離して…」
恥ずかしがるように、波流が言った。擦れた、小さな声だった。
「…息できないよ…」
「あっ。ご、ごめん」
僕はハッとして、慌てて波流から手を離した。無意識の行動は、強く強く、彼女を抱き締めていたのだ。
途端に、ヒューヒューと野次が上がり始めた。仲間達が、最初のショックから回復したらしい。
「オイ、やってくれるじゃねぇか涼」
「波流チャンのこと好きなのかよーっ」
「お前なんか、波流ちゃんに釣り合わねえぞぉっ」
「うっ、うるさいッ。大きなお世話だ!!」
僕はムキになって怒鳴った。けれど、仲間達は軍手を叩き合わせて、ゲラゲラと笑うばかり。
波流の友達・美亜だけが、複雑な顔をして僕らを見ている。
「ごめん…波流…」
僕は、自分の余りの腑甲斐なさに、へなへなとその場にへたりこんだ。
「オレ、そんなつもりじゃ…」
一筋のそよ風が、柔らかく僕の前髪を撫でていく。
ああ、情けない。
波流を想う気持ちが、とっさに前面に出てしまった。
でもまさか、仲間達全員に知られてしまうなんて。
ずっと、隠してきたことなのに…。
「涼クン」
ふわん、とレモングラスの匂いがした。波流が傍らにいるのだ。
どんちゃん騒ぎと口笛が空気を覆い尽くす中で、彼女は逃げることも、否定することもせず、僕の隣にいる。アイツらにからかわれることが、判っているのに───。
「涼クン。行こ」
波流の細い指が、僕の腕を握った。
「立って…」
言われるがままに、僕は立ち上がった。僕を見下ろしていた波流の顔が、すぐさま僕を見上げた。
「行こ」
強い口調で、彼女は言った。
「…ウン」
僕は、まるで木偶の坊になったように、ただ頷いた。もっとマシな反応が出来れば良いのに。僕は、どこまでも腑甲斐ない。