僕らのままで
温もり──Side 波流


*side波流*

 ぎゅっ、と抱き締められて──私の思考は、終わった。

 湖畔から抱えてきた胸のざわめきが、すうっと癒されていく。

 息苦しいことに変わりはないけれど、でも……


 それはもう、心地よい息苦しさへと変質していた。

 涼クンに抱き締められることが、こんなにも安らかなものだなんて。

 私は、彼の温もりを感じた。

 そして、彼の鼓動を感じた。

 生きている証。

 誰かのことを、好きになれる証。


「涼…」


 私は、彼の名前を呼んだ。

 初めての『呼び捨て』。


 くすぐったい恥ずかしさも、温もりの内に薄れていく。


「波流───」


 涼も、私の名前を呼んだ。

 言わなくても、伝わっているよね?

 気付いているよね?


 私の気持ち…。



 ずっと手に摘んでいた紅葉の葉が、はらりと落ちた。


 その時、

 私の唇は、柔らかな暖かさに触れた。


 涼の、唇だった。


 生まれて初めての、キス───。



 私たちは、いつまでもそうしていた。




 紅葉散る、湖畔で…。

*End*
< 26 / 26 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop