僕らのままで
 その時。
鼻腔を、ツン、と焦げた匂いが襲った。

「あーっ。隆志、トング貸せ!焦げてる!!」
「バカッ、何見てたんだよ!!」
 ガヤガヤと騒ぎ声がしたかと思うと、ジュウウッ、と水が鉄板に注がれた。
「アホか──!!俺の、俺の焼おにぎりがぁぁぁ!!」
 哲が、絶望の悲鳴を上げている。美亜は唇をキュッと結んだまま、消えかけの焚き火に薪をくべ始めた。

「今だよ。涼クン」
 波流が、僕を急かして歩きだした。
「あ、あぁ」
 オドオドした返事しか出来ないまま、僕はそれに従った。


 ────季節は、秋。


 高校2年生の僕達には、まだまだ『読書の秋』は似合わない。本とは、来年イヤというほど付き合わなければならないだろう。

 僕達は、野獣的な本能を満たすため──もっとも、波流と美亜にはそんな言葉は似合わないが──『食欲の秋』を満喫している所だった。

 富士五湖の一つ、西湖。
釣りで有名なこの湖畔に、バンガロー村がある。仲間の一人・隆志のじいちゃんが経営しているんだそうだ。ここで、僕らはバーベキューをすることにした。

 都会と違った、綺麗な澄んだ空気、高い秋空。

 静かなさざ波の立つ湖面の向こうには、色付き始めた山の端。

 そして、チラッと頭を覗かせる富士山。

 秋を満喫するためには、これ以上無いほど素晴らしいロケーションだ。


 そんな湖のほとりに立ちながら、僕と波流は、さっきから互いに黙りこくったまま、もじもじしていた。

 ふたりっきりだ。


 ───何か、話さなきゃ。男だろ!?

 そう自分に呼び掛けてみるものの、話すべきネタが見つからない。いつもはムダに動き回っている舌が、口のなかに貼りついてしまったみたいなのだ。

「…あの、さ…」

 口火を切ったのは、やはり波流だった。

 華奢な身体を、ちょっと固くして僕を見上げている。ココア色の髪が、顎のラインで遊んでいるのが何とも言えず可愛らしい。透けるように白い肌は、白とブルーのストライプ模様が入ったワンピースに包まれて、とても清楚だ。

「あのさ…」

 彼女は、もう一度呟いて、くりくりっとした目を下に逸らせた。『あのさ』とは言ってみたものの、続きが出てこないようだ。


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