僕らのままで
 ──確かに、アクセサリーが流されちゃったのは、残念なことだった。


 だけど…だからって、涼クンがそんなことしなくてもいいのに…。


 彼のオレンジ色のTシャツ姿は、どんどん遠ざかっていく。決してたくましくはない背中。

 
 光をキラキラと反射する湖面に、飲み込まれていく彼の背中。


 見ていて、不安で不安で堪らなくなる。


「涼くーん!」


 声を限りに呼ぶけれど、涼クンは止まってくれない。聞こえてるのかさえ、わからない。

もう、彼の背中は半分以上水に吸い込まれてしまった。

 怖い。

 怖いよ、涼クン。

 このまま、涼クンが見えなくなっちゃったら──私、どうすればいいの。


 アクセサリーなんて、どうでもいいよ。そんなことより、私をこれ以上怖がらせないで。


 すると、ふっと彼がこっちを振り向いた。


 くしゃっとした表情。
遠くからでも見えるのは、泣きだしそうな瞳。


「ごめーん。…とれなかった…!!」


 こちらに向かって叫ぶ、涼クンの声。

 パシャン、と少し強めに打ち寄せる波の音。

 そのコントラストが、妙に私の気持ちをかき乱した。

 締め付けられるような、それでいてくすぐったいような。そんな感覚が、心臓から血管を伝って、全身へと運ばれていく。

「戻って…きて…」

 叫ぶつもりだった私の声は、擦れて自分でも聞き取りにくい。

< 7 / 26 >

この作品をシェア

pagetop