僕らのままで
「涼クン…」

 続けるべき話題も無いのに、呟いてしまう彼の名前。私、本当にどうしちゃったの?


「…びしょ濡れ。風邪引くよ」
 私が何とか絞りだした言葉は、ありきたりの会話だった。
「バンガローにタオルがあるから。髪だけでも拭かなきゃ」

「そだな…」

 涼クンが、ちょっと遠い目をして頷いた。その柔らかい、ビターな色の髪から、水滴がポタポタと零れ落ちている。

「もう──無茶、しないでね」


 出来る限り優しく言うと、私は涼クンに顔を見られないように、先を行き始めた。


「何、急いでんの?」

 涼クンの声が、追い掛けてくる。


 もうっ。ホントに、女の子の気持ちに疎いんだから…。


 ねえ、涼クン。気付いてないでしょ?


 私、

 ドキドキしてたんだよ──…。
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