私に恋を教えてくれてありがとう【上】

私と夫人は目が合ってしまった。




なんてことだ。





仕事帰りの時と同じく、この病室は電気スタンドしかついていない。



夫人の歪んだ顔を更に恐ろしくみせたのだ。



「あなたがそうしないと意味ないのよ

 他の人だと、噛みつくのよ」



皮肉たっぷりにそらにばしっと叩きつけた。

そして、貧乏ゆすりをはじめ、続けた。



「この人ね、私と一緒にいてもずっと

 首を振るの。

 

 どんなに愛情深く接したってだめよ。

 

 あなたの姿を見なくなってから、
 
 発作を起こしたみたいに唸ってみたり

 ベットから降りようとしたり・・・」


彼女は

唇に人差し指と中指を当て息をふっと吐き

たばこを吸いたそうな様子を見せた。



そらは何も言えずに黙りこくっていた。




牧田はまた唸り始めた。








< 118 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop