私に恋を教えてくれてありがとう【上】
母“華子”は思いつめた面持ちだった。
いつもより蒼白くなっていて
折角のバラ色の頬が目立ちすぎて
アンバランスになっていた。
母は淳一郎にふかぶか、お礼をした。
「こんにちは、淳一郎君。
そらのこと、ありがとう」
「いいえ、こんにちはお義母さん
どうなさったんですか?
もしかしてお迎えでしょうか」
そらは母から慌てて視線を外した。
淳一郎が家に電話を入れたのはわかるが・・・。
「あ・・・ううん、違うの。
ちょっと渡したいものがあって」
「渡したいもの・・・」
淳一郎は母の手もとの、
いかにも華子の趣味である
ポップな手提げに目をやった。
「あ、僕外しましょうか?」
気を利かせて淳一郎は病室から出ようとすると
華子は彼の行く手を塞ぎ、首を横に振った。
「いいの、一緒にいてくれる?
そらちゃん、入るね?」
そらはとっさに無口を演じ
手をつかんだり放してみたり忙しかった。