私に恋を教えてくれてありがとう【上】
狭い病室だ。

2、3歩で、そらのそばに来てしまったので、

そらはこの雰囲気にちょうどいい格好の

準備もできないまま、

なんだかばつが悪かった。


淳一郎が母にイスを差し出したが、

母はそれを断り立ったまま

そらの赤くなった痛々しい手や首に

目いったがそれには触れず、

寂しい顔をしただけだった。



「そらちゃん・・・・」


なに?


と言いたかったが、喉に言葉がつっかかって、無視したことになってしまった。


母の顔はますます曇った。

「そらちゃん。ごめん。

     身体はどう?平気?」



そらはぶっきらぼうにうんと頷きながら言った。


母は、そう・・・と寂しく微笑んだ。



「「・・・・・・・・・・」」


妙な間が空いた。


すると、誰かさんのわざとらしい咳ばらいが聞こえ

彼は二人の注目を浴びた。



「えーーーー・・・いや、

 実はそらさんの身体は大丈夫ではないんです」


淳一郎は、

このしんみりとした二人の会話の間に

割り込み重々しく言ったのだ。



母は蒼白い顔をもっと蒼くさせ、彼女は倒れてしまうのでは、と思った。

・・・しかし、さっき私には何も言わなかったのに

いきなりどうしたのだろう・・・・!?




「そらちゃんは病気なの!?どどどどうなの淳一郎君!!」



華子は彼の言葉に食いついた。




血相を変えて彼に詰め寄り、

淳一郎はドアにべったり貼り付けられた状況だ。


そらも血相を変えていた。


二人とも同じ顔で同じ表情をして返答を待った。
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