私に恋を教えてくれてありがとう【上】
そらも、そう。



うっすら嫌疑(けんぎ)をかけていた。




母華子の様子がどんなにおかしかったかを

目の当たりにしたのだから。






何より23年一緒にいるのだ。



気がつかないわけがない。





いかにも怪しかったが





そらはあえてその可能性から逃げていたのだ……。




そらの強い視線を感じて、淳一郎は

話の続きを急いだ





「いや、

 憶測で言うのはあまり良くないと

 思うけども……



 ほら、過去の恋愛の物とか

 

 将来の自分に残したものではなくて、

 誰にも見られたくない、

 かといって捨てられないものとか 」






淳一郎が胸騒ぎを運んできてしまった。






「淳一郎も……


 そういうものあるの?」




そらは他のことを考えていたが、

まぁ、気にならないわけではないので

思いっきり不安気な顔をして

彼の方に話を持っていった。





やっぱりそうくるか、と彼の顔は語っていた。




溜息をひとつついてそらに言った。




「正直、僕にはない。

 

 だけど、相談の症例数は

 

 酷く多い」






そらは噴き出した。




そこで淳一郎のピッチが鳴った。



「あ、すみません病棟から、

 もしあと1時間残れるようだったら

 帰り送るんで
 
 メールよろしく」





 「うん、わかった
 頑張って」





小声でそらに耳うちし、病棟に向かった。



そらは小さく手を振った。



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