運命のレール
あの日の出来事は話し合って終わった。
というか、那苗の家が幼稚園と話し合って、と言った方が正しいか。
那苗は引越していた。

あんな子と一緒に居られたくない。


それが引越しの理由。




まあこんな事は幼稚園生の私にとっては何でもない。そうなんだ、位である。






時は経ち、小学生になる。私は目立ちたがる性格になってきたみたいで、常に大勢の友達に囲まれていた。

小学5年生の時、私には初めてと言っていいほどの衝撃を受ける。



『お母さん、お帰り』


仕事を終えて疲れた顔の母も、もう見慣れた。
でも様子が違ったのは、すぐに分かった。



『奈々、話があるの』



何か重大なことを伝えようとしているのは体が、頭がそして心が感じとった。


『お母さんね、癌なの。
肺に大きな腫瘍があるから取らなくちゃならないんだ。明後日には入院しないと。1人で大丈夫よね?』



………え?
あっさり話す母をきょとんと眺める私。

『今、癌って言ったよね?1人で大丈夫だけど、お母さ……』


言い留まった。


死なないよね?


私はこれを言いたかったに違いない。
でも今は言っちゃだめな気がした。



11歳の私は、1人で居ることに慣れていた。でも慣れているのは体で、心は1人ではなかった。

お母さんが一緒。

多分、今まで気付かなかったが、これが支えになっていたのかもしれない。



でも今回ばかりは不安になった。本当に1人になってしまう…


そう、心から1人に。
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