氷の上のプリンセス

リンク内に入ると、俺は動けなくなった。



……魅せられた。


目が離せなくなった。



こんなこと言うのは柄じゃないが、リンクの上に天使がいると本気で思った。


着ている服はジャージだったが、
リンクの上で気になるアイツが、気持ちよさそうに滑っている姿は、

本当に……美しかった。


俺は声も出せない。


幸い、実莉はこっちに気づかず、ただ楽しそうに滑っていた。


今すぐ、そばにいきたい。


抱きしめたい。


胸が信じられない早鐘をうつが、
どっかで冷静な自分が警報を鳴らす。


これ以上、ハマってはいけないと。



治まることのない心臓の拍動を無視し、俺はリンクを後にした。






…それから、練習後に何度か実莉の滑るのを見たが、
そのたびに声もかけず、同じようなことを繰り返していた……。




< 88 / 161 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop