ロデオ・カルテット─シールドロック─鳥籠編
 チェストは唾を呑み込むと、通路を無視して反対側にクルルを連れて移動した。

 その背中でチェストは気づいていた。それは、耳に聞こえてくる音だ。大抵、振り向くことは無謀に当たる。今までの経験が、警告音としてチェストの頭の中に響いていた。

「知らせ、ない、と」

「誰にっすか、大体、不法侵入で捕まるっすよ」

「それは、そう、だけどよっ」

「大丈夫っすよ。
 俺たちより周りに任せた方がきっとうまく行くっす」

 チェストは、根拠のないことを口にして後ろを確認することを放棄して、神官の陣から町へと出た。

 出た後にどこへ行こうかも、どうなるのかも、まったく検討付かないまま、クルルの腕を引っ張って、兎に角走り、裏町に潜る。

 どの町にもある善良市民には関係の無い悪党の住む世界だ。

 戦争後の裏町には、表通りとは違う嫌な匂いが充満していたが、今のチェストにはどうでも良いことだった。

「っ、てか、お前、なんなんだよ」

 そんな、先導するチェストに不振を抱きクルルが聞く。

「なにって、ただの小悪党っすよ。
 少なくとも、クルっちよりは、危険な目にあってるっすからね」

 あからさまに溜息をついて、壁沿いに歩く。
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