ロデオ・カルテット─シールドロック─鳥籠編
 ヴォルラスは一度ベッドから離れて、本に栞を挟む。

 床は、罅こそ入っているものの抜け落ちてはいない。宿の主には既に連絡済みで余程渋い顔をされた。

 そのとき、扉が叩かれる。

 てっきり酒を飲みに出掛けた彼が帰ってきたのかと思ったヴォルラスが、苦言のひとつも言おうと返事をして扉を開くと、そこには小さな式紙の野鼠がいるだけだった。

 ヴォルラスにはその意図が掴めないでいたが、野鼠がヴォルラスのズボンを口で噛み外へ連れて行こうとする様に、訝しく顔を歪めるも、愛剣レイラを付け直して野鼠の誘導に従った。

 野鼠が連れてきた場所には、若い娘が横たわっていた。

 外部に損傷は見て取れなかったが、スピカ同様に疲労傾向が強いことだけはヴォルラスにもわかった。

 ヴォルラスは娘を連れて宿に戻り、ベッドに寝かせた。

(今日はいろいろありましたね) 

 身なりからして、スラム街の住人とも思えなかった。

 野鼠は仕切に床を這い回り、せわしなくその髭をいじる。 

 ヴォルラスは、溜め息混じりに伊達眼鏡を外して髪を結い直すと夜の色に染められた外を見た。

 天気が崩れることはなさそうだったが、風の強さは増していた。
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