最後の夏-ここに君がいたこと-
「いや……もういいんだよ……」


ばあちゃんが力なく呟いた。


「え!? いいの!?」


今さっき説明しろって怒ったのに!?

ばあちゃんのめまぐるしく変わる心境についていけない。

志津が固まっていると、陸が代わりに「今から裏山に行くんだ」と後ろの道を指差した。

ばあちゃんが虚ろな表情で裏山に続く道を見つめる。


「だからだねぇ……」


「え? 何?」


「今日、久々に蛍を見たのは……」


「え? 何? 蛍!?」


陸が聞き返した時、ばあちゃんの目から一筋、涙が流れた。


「どうしたの!?」


再び素っ頓狂な声を出してしまった。


「ばかやろう」


素早く陸が私の頭をグーで小突く。

「ばあちゃんだって俺らと一緒に決まってんだろ。悠太が帰って来るの楽しみにしてたんだよ」


「そ、そうだよね……ごめん」


謝ったものの胸に違和感が残る。

本当にそんな理由なの?と眉をひそめた。


「悠太が帰ってきてよかったなぁ! ばあちゃん」


陸が、ばあちゃんをぎゅっと抱きしめる。

こいつのこういう所は凄いと思うし、本当に優しいと思う。

ばあちゃんは「ごめんね」と言いながら泣いていた。


「……」


私と悠太は、表情こそは違ったが、一様に黙っていた。

悠太は気が付いているはずだ。

この何とも言えない居心地の悪さに。

ちらっと悠太を視界の隅に捉えた。

冷めた目でじいっと陸とばあちゃんのやり取りを見ている。


「悠太?」


呼びかけたが、聞こえなかったらしい。表情は変わらなかった。

悠太のこんな表情は見たことがない。

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