最後の夏-ここに君がいたこと-
そして、悠太がこの世に居たことを忘れて欲しくなかった。

長谷川悠太という素晴らしい選手を、いつまでも多くの人の記憶の中で生き続けさせたかった。

そのために志望大学と学部を変更した。

森先生は『落ち着け!目標を高く持てとは行ったけど、無謀なことはするな!』と慌てていたけれど……

見事、現役合格。


卒業後、新聞社に就職した。全国紙のいわゆる大手だ。

そんな思いで故郷も顧みずに、この6年間ひたすらに仕事に打ち込んできた。

だから、悠太のお墓に来るのは6年ぶり。

大学を卒業した日に陸と来た以来だった。


「しばらく来れてなくてごめんね」


お墓の前にしゃがむと、来る途中で買った線香をビニール袋から取り出す。

ライターで線香に火を付けると、むせるほどのお香の匂いがあたりに漂う。

バッグから取り出した2通の封筒を墓石の前にそっと置いた。


「……読んでね」


1通は、見覚えのある赤と白と青のエアメール。

もう1通は真っ白な封筒。

白い封筒には陸の字で『長谷川悠太様』と書いてある。


「結婚式の……招待状なの」


胸が締め付けられそうな思いで目をぎゅっと固くつむりお墓に手を合わせた。





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