最後の夏-ここに君がいたこと-
あの日と同じようにセミが大きな声で鳴いている。

深い緑に染まった樹の葉の間から降り注ぐ太陽が気持ち良い。

こんな気分は久々だ。


「田舎最高ー」


「うわー、都会人ぶってんなよ」


ふたりの楽しそうな笑い声が裏山に響いた。


「そういえば、私ずっと聞きたかったことがあるんだけど」


「なに?」


「悠太が、最期に言ってた『約束』。あれって何だったの?」


悠太が、最後にどうしても陸に伝えたかった言葉……。


なんとなくずっと聞けないでいた。


「……」



――『陸……あの約束、もう守らなくていいからな』




突然の質問に驚いた陸が、少し考えてから笑って言った。



「……秘密!」


「えーっ!? 教えてよ!!」


「いーやっ、男同士の秘密!」


「わぁ、気持ち悪―い。けちっ」


余裕の笑顔を見せる陸の後姿に向かって叫んでやった。



この光景を悠太が見たら『相変わらずだな』って笑ってくれるかな?


ふと前を見ると真っ青な空を見上げながら陸が微笑んでいる。


「……どうしたの?」


怪訝な顔で覗き込む。





< 339 / 350 >

この作品をシェア

pagetop