最後の夏-ここに君がいたこと-
もういやだ。

喜べない自分も、私たちを置いていなくなってしまう悠太も、大嫌いだ。



どうしていいか分からないまま時間だけが過ぎていく。



悠太が旅立つ日まで1週間を切った頃から、陸がやたらと送別会に誘って来るようになった。


「明日、クラスで悠太の送別会やろうって話になってるんだけど」


「行かない」


無表情のまま即答で断る。

それでも陸はめげなかった。

翌日には別の送別会の話を持ってくる。


「商店街でも送別会やるらしいんだよね」


「行かないから」


誘われる前に断っても、また翌日には別の送別会。


「サッカー少年団時代のメンバーで送別会するから行こうよ!」


「それ、私関係なくない?」



そんな誘いが毎日の様に続いた。


「志津ー、明後日駅まで悠太の見送りに……」


「行かないってば!毎日毎日しつこい!」


ついに私は陸を怒鳴りつけてしまった。

陸が引き気味に「ご、ごめん」と謝る。


「もういいから。放っといてよ」


私の吐き捨てるような言葉に、カチンときた様子の陸が口を尖らす。


「お前まだ悠太のこと怒ってんの?」


「は?」


「仕方ねーじゃん。留学した方が良いってお前だって分かってんだろ?」


くっそぅ。
陸に説教されるとは。


何も言いかえせず、黙って顔をしかめた。


「だいたいお前だっていつかはこの町を出て行くんだろうが。なのに悠太のことは許せないだなんてただのわがままじゃん」


「わがままで結構よ」


開き直るしかない。

陸の正論に対抗出来る立派な理由なんてないんだから。

陸が呆れ顔でため息をつく。


「じゃあなに、お前は悠太が“留学やめたー”って言えば満足なの?」


痛いところを突かれる。


「わかんない」


もし悠太が今そう言ったとしても私は多分嬉しくない。

心の中が矛盾だらけだ。

自分で自分の気持ちが分からないんだから、他人に分かる筈もない。

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