最後の夏-ここに君がいたこと-
「東京方面ご利用のお客様は、ホーム停車中の電車にご乗車下さい」


再びアナウンスが流れ電車のドアがゆっくりと開く。

悠太は乗り込むと、ドアの前に並んだふたりに向き直った。

あぁ。本当に行っちゃうんだ……。


「そんな顔すんなよ」と悠太が笑う。


ドアの向こうの世界がとんでもなく遠い別世界に感じられた。


「また……すぐに会えるよね?」


「おう、休みには帰ってくるよ」


「本当に?」


「お前はしつけーなー」陸が苦い顔をする。


「大丈夫、またすぐに会える。約束するよ」


悠太がにこっと笑って私の頭のてっぺんをぽん、と優しくたたいた。



―――やっぱり好き。



その大きい暖かい手がすごく好き。

優しい低い声も笑顔も全部大好きだ。



「陸と仲良くな」


「先生みたいなこと言わないでよ……」


別れの言葉が辛い。

耳が痛くなる。


「陸、今年は県大会で優勝しろよ?あと、昨日言った事なんだけど……」


「分かってるよ!安心して行って来い」


言葉を遮って、陸が悠太の手に何かを握らせた。

悠太が手を開くと、緑と黄色のミサンガがあった。


「これ……」


「それ昨日の夜、志津とふたりで作ったんだ! 無意味にブラジルカラーなのは志津のセンスのなさが招いた悲劇だ。すまん」


「あんたねー……」


文句を言おうと志津が口を開いた、時だった。

悠太の掌に置かれた2つのミサンガに大粒の涙が落ちた。


「ありがとう」


悠太が泣いていた。



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