私に恋を教えてくれてありがとう【下】
「まずは駅まで辿り着くことが出来ればいいんですけど……

 空黒すぎますね

 この先生みたいに」


肩で大島先生を指し
今にも豪雨をもたらしそうな
欲張った重量感のある雲をまじまじと眺めている途中
華子は突き刺さる何かを感じた。



小柄な女の視線だった。



なんと賤しい目で見ることか。




獲物が独りになった隙

ほくそ笑むその女はつばを吐きに来た。



「へらへらふざけて介助してるんじゃないわよ

 そんなんだから変なのしか寄ってこないのよ」



「あ……すいません

 そんなつもりは……」



師長は華子の応えを聞かず昼休憩をしに去って行った。

見事にあとを濁していったのだ。

胃にグラっときた。

最後の患者の針とチップを渡し
大島先生と挨拶をし

そこまでは“華子”だった。

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