私に恋を教えてくれてありがとう【下】
傾ぐ気持ちを抑えに抑え
笑顔でいたが、その反動は予想以上に大きいものになった。


昼休憩をとる気なんかには到底なれやしない。


今華子の胃袋には師長の言葉があの雲の様に重くのしかかっていて

それだけでお腹いっぱいといったところだ。


もう穏やかで明るい“華子”でいられない。



独り、誰も居ないロッカールームに佇むこの女は


“牧田の愛人(おんな)”



華子は自分のロッカーの鏡に映るその愛人を見て項垂れ、その場に崩れた。




『師長はわかっている


 私と牧田のことを


 知っている』





そうとしか思えない。




華子は無意識のうちに人の視線から離れたい一心で

狭い視界の中

上の階にある更衣室へと
忘れ物があったという風貌で
駆け付けたのだった。
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