私に恋を教えてくれてありがとう【下】
華子はあたたと尻もちをつき、

ぶつかってしまった女性は何事もなくスラッと立っていた。


「大丈夫ですか?」



ハスキーな少し潰れた声だ。


しかし、気品に満ちた抑揚が目立っている。



「申し訳ありません!

 だ……大事なかったですか?」



華子は即座に立ち上がり

その女性に目を向けた。



目の前に居たのは
胸元まで伸びた美しい黒髪をかきあげる仕草が

弥が上にも気品を漂わせている

黒真珠の様な女性だ。



彼女は切れ長の目で目を少し腫らし間抜けた顔の華子をじっと見つめた。


その瞳の奥で彼女は何かを語っているような気がしたし


次第に彼女の瞳孔が縦に割れていった気がして


少しずつ後ずさりしてしまった。



当惑していることに気付いたのか


「私は大丈夫です。

 お気をつけて」


彼女は口端だけをつり上げ

とてつもなくゆっくりな

力強い瞬きをし、記憶に焼きつけるかの様に華子のつま先からをしっかり見てから

美しい髪をなびかせ

長く細い脚で上がって行った。


その姿はまるでレッドカーペットを歩いている様だった。

「…………」


華子は視線を落とした。



エアコンが直接当たっているのか

今まで相当蒸されていたからか

華子の腕には鳥肌が立っていた。


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