私に恋を教えてくれてありがとう【下】
「なんだよ!」
祐樹が頬をピンクにしながら鍋を食べよう!と促した。
好意を抱いてくれてるんですか?
と、もう一人の喧しい自分がずっと彼に囁いていて
その後の会話に逐一水を差して邪魔した。
華子はそいつをなんとかするべく祐樹がわんこそばみたいに
よそい続ける韮やもつをがむしゃらに食べた。
「そういや、佐藤は就職決まったんだよな」
ひょんに祐樹は今華子の中で一番暗い話を持ってきた。
華子の顔は一気にくもの巣にかかったようになった。
「そうなのこの前言ってた病院に決まったの……
実は4月からじゃなくて
中途出社しないといけないんだって」
「え……きついね
いつから?」
いきなりテンションの下がった華子の声に泡を食ったようだ。
「来週」
わざと溜息混じりの涙声でじめっとして
一気に梅雨がやってきた。
「寿退社の人代わりらしくて、
早く来てほしいんだってさ」
「げー。
・・・4月までは時給で?」
「そうなの・・・」
華子は箸を行儀悪くかじかじしたが、祐樹に阻止された。
「じゃぁ今日は出来るだけ
元気をつけてもらわないと!」
落ち込む華子の肩を調子よく小突いた。
すると、店内の照明がゆっくりと落とされていった。