私に恋を教えてくれてありがとう【下】
でも何も言いださない二人はひたすら眺めていた……


一つの出入り口で次々と多種多様な人間が行き交う様を。




親切にドアを開け、商品の搬入カートを入れる手助けをする一般客や

一際目についたのは

腰の曲がったいかにもどこか五体満足ではなさそうな老爺が杖片手に

なかなか扉を開けられずにいる。


やっと店から出る20歳前後の女の客とタイミングが合い
胸を撫で下ろしにっこりした。

しかし女は彼氏らしき男に呼ばれ
扉を少ししか開けずそのまま男のもとへと駆けて行き

老爺は扉に挟まってしまったのだ。


そこに仲むつまじそうな夫婦が車から降り駆け付け一緒に入店をした--------。



その姿は華子の容態を悪化させた。


夫婦の姿のみではなくまるで老爺が牧田に重なり


若者は自分の様で-----。


確かに自分は牧田を受け入れた。


しかし、自分の都合や体が悪くなり掌を返したのではないだろうか……?



私が逃げた先には別のあてがあるから……だからこんなに気丈でいられるのか??



“普通の道”へと

“本来の私の倫理”へと還れることへの安堵か?




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