私に恋を教えてくれてありがとう【下】
そうか……私はもう非道ではないのだ……。
“この車から出た瞬間からもう自分は
もとの華子に還ることができる”
-----音もなしに時は19時半をまわり
彼からの視線を異様に感じ
眉間に硬い皺を寄せたのだが
その表情を見た牧田は何とも消えてしまいそうな目で華子を見詰めて言った。
「…………子」
また上手く声が裏返り
華子は例の如くそっぽを向く事に集中した。
「……本当にごめん。
でも……迷惑とわかっていても
あなたのことしか考えられないし
抑えることが出来ないんです」
牧田は威張った腹を重たげに
後部座席へと身をねじり
小さな何かを取りだし
華子の膝へとすっと置いた。
-----濃紺で光沢のある袋だ。
華子の視線はこのとき初めて牧田に向けられ
そのまま彼は華子を捕え
乾いた唇を押しつけ、何とか厚いものにしようとしたが華子は抗(あらが)った。