私に恋を教えてくれてありがとう【下】
「------!!!!

っあっ!!!!」



華子の片言。


それもそうだ、華子は牧田の灰色の髪を濫伐(らんばつ)したのだ。


拳には数十本の剛毛がかたく握りしめられていた……。


年も年だし髪をこんなに抜いてしまったことに少しは怒りを覚えるのではと
身を縮めたのだが

彼からは相違う言葉がささやかれた……。



「僕はあなたの事しか想えません。


 この先ずっとあなたのことを愛しています。


 僕には華子だけです」



牧田の顔にひょうきんのひの字もなく

こんなに真剣な面持ちは初めてで……



華子はとっさにドアを開け、なり振り構わず車から飛び出した。



「華子!!」



華子はドアを開けたまま、後ろを振り返ることなく走った。

全力で走った。


気が狂ったように走った。


5センチのヒールは団地の暗い夜道に響き

一度着地し損ね華子は疾走を断念せざるを得なくなったが

既に家の前の路地に到着していた。


「……はぁ…はぁ…い…痛い……」



あまりに夢中で駆けていた為にヒールお構いなしに走っていたのだ。


華子は左足をおさえその場にしゃがみ込んだ。


上がった息はなかなかおさまらないし、華子の脳裏にはあるものが浮かんでいた……。


家の前に燃える様に咲く鶏頭は華子をまじまじと見ている様に見える。



このまま家に帰るべき


そう言っている気がした。



でも華子の足は自然と違う方向へと向かっていたのだ。



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