私に恋を教えてくれてありがとう【下】
もう彼の真っ黒な愛車はいなかった。

はたまた闇に溶け込んでいるのではないかと
華子は不審者の様にならない為に目だけで辺りを見渡し

やはりこの場を去ったと確信した。



暗い角の駐車スペースにはまだ空になっていて華子の視界にきらっと光るものが入り

視線を落とした。



そこには牧田が華子の膝に置いた光沢のある濃紺の子袋が無造作に転がり

そばでは冷房で発生した涙が
こう配に身を任せて黒い染みを残していた。


華子は子袋の前に膝を落とし
ガラス細工を扱う様に拾い上げ

子袋の中身をのぞいた……



小さな濃紺のベロアのケースに
燃える真っ赤なリボンの花が咲いている




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