私に恋を教えてくれてありがとう【下】

15、誰を想う

その日、私は風を感じていた。

目に飛び込むのは青い木々で
そこに溶け込みたい……

必死に願っていた。


目の前には広々とした湖

朱色の鳥居。

岸辺から延びる年期色の石畳は
間にちらほら苔をあしらいながら鳥居を目指している。

女はコツコツとヒールの入った灰色エナメル調の靴を鳴らし先端へと向かいしゃがみ込み、憂いを漂わせた顔で水面をのぞいた。

「佐藤?」


女の顔が影に覆われ、振り向いた途端小魚達が散って行った。

隣に座ったのは“白石祐樹”。

小魚達はまた何事もなかったかのように二人がのぞく影の辺りを探索し始めた。

「……魚……食べたいとか言わないよね」

祐樹は口端の片方クイっと上げ微笑んだ。

「……今はケーキの気分。魚のケーキって美味しいのかな……」

「「……………」」小魚達がまた散っていく姿を祐樹は確認した。


「腹減ってるの?」

祐樹は華子の手を取り一緒に立ちあがらせ、左腕にした重そうな時計に目をやった。


……男の人ってみんな重そうなのしてるな……


「ゆう……」


「白石君はお腹すいてないの?」


彼は細めの目をピクリと、ほんの一瞬大きくさせた気がした。





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