私に恋を教えてくれてありがとう【下】
“物に罪はない”

そんな軽率な考えで、華子は牧田からのピアスを着けている


「……あれ」


筈だった。


華子の左手に何もふれない。

とっさに立ち上がり服を叩き、テーブルの下を覗き、店内で自分が歩いたルートに目を凝らした。

華子は自分の心臓が何十倍にも重くなったのを感じ、そのまま固まってしまった。


「佐藤?もしかして失くしちゃったの?」


祐樹の声は届かなく、華子は口を真一文字にして固まったままだ。

「「………………」」



華子は胸をおさえ発作を鎮めるのに必死になっていた。

いつ失くした?着替えもしていない、暴れまわった訳でもない……。

走馬灯のイメージよりはるかに速いスピードで頭の中のフィルムを回し、その音が響き、ある場面へと巻き戻り、そこで止まった。



……もしかして……



華子は頭を抱え、ドクンッと喉元の大きな脈打ちを全身で感じた。



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