私に恋を教えてくれてありがとう【下】
きっと自分も客観的な立場だとしたら、そう励ますと思う。
でもどうだ?
当人という立場は……。
彼らの声はどんどんくぐもり遠くなる。
ただ華子の中に轟くのは
“なぜ私?”。
華子の中の疼いていた倫理的感情が別の華子を創りだし
逆に苦しめた。
「分かっていても心が、身体がついていかないんです」
滝瀬の悪口をやんわり言い合っていた二人はピタリと口をつぐみ華子を見た。
「優しいお言葉、本当にうれしいです。
滝瀬さんの行動は確かにちょっと……と思っています。
正直なところ、今回の事を色んな方にお話しされているとも思います」
二人はちらりと一瞥を投げ合った。
「でも、
でも、
私がいけないんです」
華子は総師長と視線を力強く合わせた。
「私は先ほどの様なことばをかけてもらえる筋合いなんて一切ありません。
ですから私の意思は変わりません」
華子は言った。