私に恋を教えてくれてありがとう【下】
華子は別に腕をつかまれたことはなんとも思わなかった。
病院ではよくあることだ。
とりあえずよぎった考えは、
名前を聞いて
この人がどんな患者なのかカルテの中身を読んでみなくては……
ということだけだった。
この小男は頑健な感じで、
灰色のスーツでかっちりきめた
ごく普通の社会人に見えた。
あえて言うならば肥満気味といったところだ。
華子は奪われた腕を解こうとはせずに、
黒髪をねっとりとさせ、
額を惜しむことなく出しているこの男性に
話を伺おうとしたが
辛くもいきなり現れた彼のさわやかな笑顔が先手で
華子の口を塞いだ。