私に恋を教えてくれてありがとう【下】
「わたくし、金井と申します。
本日超音波の検査と採血があるということで
担当医から伺っているのですが……」
彼の風貌に合った低く、太い弦が震えた様な声で
どこか気品さえ感じられた。
……この手さえ離してくれれば。
「あ!はい!
本日腹部超音波8:30から予約の
金井 竜太さんですか?」
華子は金井の目を見て伺いながら尋ねると
彼はにんまり微笑んだ。
「さようでございます」
今度は外気で凍えた手を温めるかの様に
両手で掴まれた。
これは様子がおかしいかもしれない……。
「では、採血の伝票の準備をいたしますので
掛けてお待ちいただけますでしょうか?」
華子は笑顔は絶やさず行動を起こした。
……腕をはなさない。
金井のもろ手は、離れようとする華子の片腕を
執拗に捕らえていた。