私に恋を教えてくれてありがとう【下】

華子は祐樹からこう言われると考えていた。


「本当に俺の子?」と。


そして別れるつもりだった。



普通わかるだろう。



好きあっている同士なのに

何の相談もなしに中絶を申し出る。



他の人間の影が見えないか?


それだけ信用されていると受け止めていいのやら

何かに気づこうとする姿勢がないのか

それともただ単に何もわからないのか……。



でも彼の流した涙の意味は深かったんだと思う。



予期せぬ方向に事が進んだとことを喜ぶべきなのだろうか……。



でも、華子の心を蝕むのはとてつもなく汚濁したもの。



このまま何も言わなくていいのだろうか……

この葛藤の存在が

生まれ変わったはずの華子にとって煩わしいものでしかなかった。



“お前は倫理的になったんじゃないの!?

 何で正直に言わないの?

 それが今のお前にとっての倫理なんじゃないの?”


幾度となく少しでも暇があれば

華子の中の華子が騒ぎ出し

その度陳謝するのだ。

< 269 / 355 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop