私に恋を教えてくれてありがとう【下】
23 私の倫理
祐樹、貴方は今どこに居るかな。
私は今どこに居る?ここはどこだろう……
先の見えない石油色の地面に華子はたたずんでいた。
背後からピチャっと雫の落ちる音がして、華子は思わずビクっとし振り返った。
「……誰?」
遠くに男性の人影が見え、呼び止めると彼は華子の方に振り向いた。
「祐樹!」
祐樹は遠くでニッコリするだけでいつものように駆けよって来てはくれない。
むしろそっぽを向き歩きだしてしまった。
華子は走りだした。
片腕をめいっぱい突き出し、祐樹を捕えようと必死に走りなんとか片腕を掴みこちらに振り向かせた。
「ねぇったら!……
……!!!」
途端、華子の腕は重々しく岩を片腕に吊れ下げれているかのようになり倒れこんでしまったが
それでも手を差し伸べてくれない祐樹を、華子はひざまつきながら窺った……
息をのんだ。
つるんとした真っ白な顔の目があるであろう場所から、出る筈のない手の平大の、あの涙型のピアスがゆらりゆらりとぶら下がっている。
そしてこもった低い電子音の様な声が言った。
『ドウシテ ワタシヲ アイシテ クレナインデスカ』
ドクンッ
視界に波紋がひろがり、ゾッとし、毛穴という毛穴が一気に目を覚まし、
次の瞬間、卵型の顔が渦を巻き、シュっと姿を変えた。
黒い小さなまが玉にぎょろりとした目玉が見開き、宙に浮いたそれは華子をその場に固まらせた。
『イタイ……クルシイ……ヒドイ……』
か細いガラスを引っ掻いた様な声がしんとした異空間をつんざいた。