私に恋を教えてくれてありがとう【下】
全ての処置を終えた華子はひとり、違和感のあるお腹に自然と手を当て、
千鳥足とまではいかないが、おぼつかない足取りで婦人科をあとにしようとした。
だってそうだろう。
彼女のお腹にいたのは自分の子ではないと真実を告げられたのだから。
……全てがグレーに見える。
雨は止まず、それをよけるものを持っていない華子をひたすら刺す。
それがいい
気が済むまで刺すがいい、痛めつけてくれ。
鞄の中で悲痛なうめき声が聞こえたが、華子は無視をし
自分を痛めつけることに専念し、銀竹の中を突き進んだ。
唸る風が華子を罵り、叩く雨が心をも濡らす。
でも、都合がよかったことがある。
それらは自分から漏れ出した雨を隠す玄人であったことだ。
「……辛いじゃないか
まったく……」
そういって熱くなる身体はすぐさま冷やされる。
効率のいいことじゃないか。
空を見上げ黙祷を捧げるかのように
いつの間にか華子の足は突き進むのを止めていた
いや
進むことが出来なくなっていた。