私に恋を教えてくれてありがとう【下】
華子は喉元で言葉をのみ込んだ。

……わたしの何を知っているのか!!

その感情は眉間に現われていて、祐樹は残念そうに、深い溜息ではなく深呼吸をした。


「俺見てたんだ。

 帰り道、いつもお前たちが会ってた小さな公園で

 妙に深刻そうな面持ちしてるところ。


 その日は草野の様子が異常に明るくて、

 華子といいことがあるのかと思って

 あの公園をちょっと意識して帰ってた」


「でも違ってたみたいだった。

 草野が軽くその場を去ったあと君はそのまま立ったままだった


 ……ピクリともしなかった。


 俺、あんまりにも様子がおかしかったから

 たった今通りすがった様に見せかけて

 声をかけに行こうかと思った……。



 どんどん近付いて、後ろ姿しか見えなかった君の顔を見ようと

 公園のフェンス越しに目を凝らしながら移動したんだ。



 そしたら君は……」


祐樹は華子の柔らかで冷え切った頬に、スッと手を当て


「今みたいに、声も無く泣いてた」


昔、拭うことのできなかった華子の涙を幾度も幾度も拭った。






< 291 / 355 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop