私に恋を教えてくれてありがとう【下】
本当は、化粧が崩れるのが嫌で、手を払いのけたいところだった。


けれど、もうそんなの関係ない位で、寧ろ祐樹は

目のまわりに流れた、黒い縁を丁寧に拭き取る様だった。


大事に、

殊更大事に……。


雨は幾分落ち着きを見せた様で、

痛みが和らいできたことに気がついたが、

胸と喉の痛みは、まだまだ華子を苦しめた。

「いつも、どこかで、隠れたところで葛藤してるのかなって

 ……とても、あのときの俺にとっては“大人”に感じたんだ。

 勿論、次、学校の時笑顔だった。

 本当に大人だな、強いなって思ったんだけど、違ってた。

 俺、知ってるんだ。

 
 あれから何週間も、学校の帰りにあの公園でひとりで泣いてたこと。


 何度も何度も、声をかけようとしたけど

 二のあしを踏んで終わりだった。


 ……結局その後、俺達に進展はなかったけど、

 ふと、華子の文字や後ろ姿を思い出してしまう日があった。


それが、なんていう気持なのか……なかなか理解できなかった。

だから俺、メールだけでも繋がっていたいと思って、卒業後も連絡を入れてたけど

何せ華子は引っ越ししちゃったし……

ますますよく分からなくなってきてた。


そのうち、俺ももう大学生になってたし、華子は2年制の専門学校だったから

就職目前で……


正直俺、焦ってた」


祐樹は一息ついて白状した。



「華子が、病院でいい人と出逢って、結婚したらどうしようって」










< 292 / 355 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop