私に恋を教えてくれてありがとう【下】
しかし、

「もう……それで全部??」


穏やかな中低音が華子を包んだのだ。


「華子はいつも黙ってるんだ。

自分が苦しいって事も、助けて欲しい時も、体の悪くなることも。


 押し殺して自分を苦しめるんだ。


 それが正しいと思い込んでる」

祐樹は矢をうち付け、核心という名の的に突き刺した。

華子の心、自分の創造した“華子”が崩れていく。

たったのひと押しだった。

等にそれは、あの男“牧田”によって、無数のヒビを入れられていた。

華子は最後の涙を、一粒、ゆっくりと落とした。


まるで涙型の思い出を開放し、慈しみ、新たなものを受け入れる儀式。

重く深く閉じていた瞼に、光が差し込み、七色に潤む瞳には愛する人がただ一人……。


……この時、風の音、雨足……全てが無になり


「人としての導を誤ることを、なんでそんなに怖がるの?

 今までの自分はそんなによかった?

 今の自分は?」

華子の心の中に入り込み


「俺が思うに、昔の、自分を押し殺してばかりの華子より

 今の自分を曝け出した華子の方が

 もっともっと……


 愛おしくて仕方がないよ」


抱擁した。




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