私に恋を教えてくれてありがとう【下】
深い一服をした夫人は、灰をきちんと灰皿に落とし

フッと笑い言った。


「いいのよ……」

と。


「私だって、もう……生きて半世紀よ……

 実は……


 昔の私のことも、誰か止めてくれる人がいたら―――……


 なんて思っていたことがあるの……


 今言ったってもうこの年よ、仕方のないことは十分わかっていても

 心のどこかでもう一人の自分の声が聞こえたわ……。

 本当おかしいわよね、嫉妬だって人並み……いいえ

 人並み以上にするのにそんなことを……。


 でも、人から奪った罪悪感が呪いの様にのしかかって……」



複雑な顔をしている華子の目をしっかり捕え、胸を撫で下ろす様に夫人は言った。


「……あなたは私の様にならなくてよかった……」


たった一筋の涙とともに……。


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