私に恋を教えてくれてありがとう【下】
 
華子は目の前に恐ろしく美しいものを見た。

皺はあるし、髪もぼさぼさで、ただ口端を少し上げているだけなのに

まるで聖母だった。


薄暗さは厳かさに、時計の音は鐘の音に

煙草の火は蝋燭をおもわせて……一枚の絵画だ。


華子は茫然と夫人を見ていた。


あまりの優しさに、いきなり腕と下唇がわなわなした。


そして、氷の壁が割れたのだ。


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