私に恋を教えてくれてありがとう【下】
個室の引き戸が開き、またそれは閉じられた。
中でこもる声のほとんどは淳一郎のものしか聞こえない。
いや、本当ははっきりと聞こえていたのかもしれないが
今や華子はひとりで立っている訳ではなく
そらにがっしりと支えられているのだ。
大丈夫だからと、そらに目配せをしても
そらは首を素早く横に振った。
母を支えていると思われる娘は、怯えている様に見えた。
華子と夫人は一体何故一緒だったのか、そしてこれから夫人は華子に
何を要求するのかを連想し
その内容が余りに恐ろしいものだったのであろう……
そらといったら華子の盾にも矛にもなるだろう。