私に恋を教えてくれてありがとう【下】
「はい、終わりですよー

 枕の脇にタオルがあるのでそれでお腹を

 拭いて

 身支度整えてくださいね」




華子は上の空だった。



検査が終わったら患者のお腹を拭いて、と


先輩から教えられていたのをすっかり忘れていた。



慌ててカーテンを開き申し出ようとしたら、


牧田が首を振った。



“もういい”


“こんな簡単なことも出来ないのか”







そう思われたんだ。



華子は気まずく寂しい顔をしてしまったと同時


金井も寂しい顔をして、身支度を整えている。



この男の肌に触れなくて済むことは大いに喜ばしいこと。





だが……ついさっきまでの牧田との


和やかな空気を早くも粉砕してしまったのか?





そう思うと何故だか悔しさに襲われた。





「では金井さん。

 


 超音波の結果は

 立派な





 “脂肪肝”


 です

 食事気をつけてくださいね

 採血結果は問題ありませんでしたから

 もう帰宅なさって大丈夫ですよ」




華子と金井は耳を疑った。




まだ採血結果は出ていない


それにどこかしら牧田の雰囲気が先ほどとは違っている?



「あ・・・・先生。

 本当に何にもないのですか?

 何か他に検査を受けなくとも?」



金井の目が激しく泳いでいる。

華子の目も同様だ。


「ええ!だーいじょうぶです!!

 この食事療法のパンフレットをお読みになってください

 では今日はお疲れ様でした」





そう言いながら牧田は部屋の出口へと金井を誘った。




そして金井は

華子の横を通りすがり様

“チッ”と舌打ちしてすごすご会計へ向かった。
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