私に恋を教えてくれてありがとう【下】
思えば高校3年間つるんだこの人間は


リアルタイム華子の恋愛をともに過ごしている。


卒業してからも連絡は途切れることはなかったのだ。



百合は華子が不倫理を嫌う人間だということを

誰よりも知っているのではないだろうか。



華子はうつむいた。



“恥ずかし”



自尊心が蠢いた。



昔の自分の発言、行動はこの場で撤回され

ヘドロで塗りつぶされ

思い出の中の自分は身動きが取れなくなっていた。



まだ恋愛もあまり得意でなかった中学の時

技術の時間

真っ直ぐに伸ばしたハンダをコテで溶かすのが好きだった。


なぜかその記憶を思い出させた。


バックグラウンドでは他の客の出す食器の金属音や

楽しく雑談する声よりも

幼い時聞いたことのある様な

優しいオルゴールの音楽が

雨粒みたいに華子に降り注いだ。


あつい。


指先まであつい。



喉がしみる……。


華子は溢れだしそうな水分の出口をグッとしめ、閉ざした。



すると、オルゴールを背景に


「華子ちゃんは本気で好きなんだね


 好きな気持ちに嘘はつけないよ

 
 だって一途だもん」



百合が放った。


温かい。


華子は小刻みに頷きながら

うっすら百合を見た。



眼差しも

いつもと変わらない仕草も

変わりがないからこそ温かい。


華子の喉の苦しさはこの薬で緩和され


彼女に有難うの微笑みを送り

二人は楽しいランチを再開させた。


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