私に恋を教えてくれてありがとう【下】
エレベーターの扉が開き

小さなその部屋は密室という名の花園だ。


そこには二人の他、何人たりとも寄せ付けない。

“寄せ付けは……”



扉が閉まるなり

牧田は他の階が点灯していない事を認識し

この数秒間を最大限に活かした。



二人はお互いの鼻呼吸の息遣いを聞きあい

最上階まで溶け合った。



そして医局は全く人気がなかったが

二人は一応2メートル程離れ、別々にドアを開け

医局へ入って行った。



ここの医局は三面ガラス張り。

しかし最上階はこの部屋しかない為

周りは屋上で、療養病棟のマットを取り込んでいる様子がうかがえた。



……華子は抑えていた。



体は既に雑巾を絞り先生たちの机上を磨き

使用済みのカップを洗い

書類を各々の場所へと配布していたのだが……


華子の中で、他の華子が喉をならしているのだ。




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