私に恋を教えてくれてありがとう【下】
その事を華子はわかっていたが

さっきの甘いひと時の延長を欲しがっているだけと抑え込んだ。



“支配欲”というものを消し去ろうと。


華子は大きな溜息を頬を膨らませ真っ直ぐ吐いた。




「んはははは!」




突然の声に華子は

小動物みたいに身を縮めびくっとし

部屋の対照側に居る牧田を見た。




彼は長い脚を投げだし

背もたれにどっぷり掛けながら

大笑いし、おまけにせき込んだ。



なぜか非常に辱められた気分になり

華子は小さく吠えた。




「カチンときますね」




流しの上の戸棚にお茶の補充をしつつ言ってやった。



牧田はその言葉に反論がある様で

エヘン虫で表情を切り替え



「すみません。


 しかし、カチンと来るのはこっちでしょ」



椅子から立ち上がり、でっぷりした腹の両脇に手を添え“えへん”として見せた。




華子は思い当った。



「午前のことですか?」


シンクを磨きながら牧田の様子を探った。


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