私に恋を教えてくれてありがとう【下】
そんな笑顔もつかの間

この映画鑑賞がこんなにも息苦しく

痛烈なものを胸の奥に感じさせるとは

思ってもみなかった。




いつまでも、いくつになっても愛し合う
この夫婦は華子には眩しすぎた。


華子は目に浮かぶものを我慢していた。

鼻をすするのさえも我慢していた。


しかし場内は感動に渦巻いていて、すすり上げる音は至るところから聞こえていた。

華子の隣も例外ではなかった。




そしてクライマックス

華子は大きく鼻をすすり

ゆっくり瞼を閉じると

溜まった惨さが滴りおちていったのであった。



祐樹はそれを見た。




そして何を感じたのだろう。


そんな華子を見て祐樹はまだ暗い場内で彼女をそっと自分の胸に隠しこんだ。



祐樹の香りが華子のくすんだ心を浄化する様だった。



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