愛のない世界
「いいよ…」
男は、掠れた声で言った。


「えっ…?」
彩香は、男に聞き返す。


「いいよ…。君が、僕で良ければ…」

男は彩香の髪を優しく撫でながら、もう一度答えた。


男の言葉は、凍えていた彩香の心を静かに解きほぐしていく。


粉々になってしまった、彩香の心のカケラを一つ一つ優しく繋ぎ合わせ、元の形へと紡いでいった…。



男が彩香を、ふわりと抱き締めた。


まるで、ガラス細工を扱う様に…。


男の体に、すっぽり納まった彩香の体は、男の肌に吸い付く様にして、離れるコトはなかった。


抱き締めた彩香の耳たぶを、甘噛みする。


そしてもう一度、彩香の耳許で囁く。

「…いいよ」




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