溺愛ドロップス
嘘の上にまた嘘。
意味深にあたしの嘘に納得する男の子にここがどこだか分からないのに教室に戻ると言い放ったあたし。
すくっと、頬っぺたに添えられている手を無視して、掴んでいたワイシャツから自分の手を離したあたしは立ち上がった。
すぐにててて。踵を返し男の子の傍から小走りに離れて曲がって来た角を曲がるけど、少し進んだ所で道が前と右、二つに分かれていて。
…どっち…?
一か八か。勘を頼りに右の道の方へ足を一歩踏み出す。
――…だけど。
踏み出した足を戻し、くるりと身体は回れ右。あたしの足は男の子が居るであろうさっきの場所に向かって駆け出したのだった。
勘で行ってみようと思った。でも、きっと、その勘は多分ハズレ。何故かそんな気がして。
悔しいけど。むちゃくちゃ悔しくてたまんないけど。
始業式にまだ間に合うならもう何でもいいと、あたしは嘘を謝りに。そして教室までの道を教えてもらおうと駆け出したのだ。
ハァハァ、運動不足の所為で短い距離でも少し乱れた息を整えながら曲がり角から顔を出したそこにはもう、男の子の姿は見当たらなかった。