溺愛ドロップス
『で、でも、あたし置いて行かれたよ?』
パパとママが言うセリフが、もう零は学園に一人で行ってしまったと思っているあたしには信じられなくて。嘘だと言うようにあたしは口を開く。
だけどパパも、パパの隣に腰を下ろしたママも何かを悟ったのかあぁ、と紡ぎ楽しそうな表情で「だって零照れ屋でしょ?」なんて、同じことを言うのだ。
「バイクの音聞こえてないし、外出てみれば?」
んんーっと不思議に難しい顔をするあたしに二人共「いってらっしゃい。」ひらひらと手を降って爽やかな笑みと柔らかな笑みを並んで見せる。
『……いってきますっ。』
パパとママの言うセリフにまだしっくりきてないけど。
だけどあたしには考えている時間なんかなくて、食パンを無理やり口の中に頬張り、それを背中に受けながら鞄を肩に掛けて再びバタバタと家に豪快な足音を響かせながら玄関目掛けて走った。
玄関に着いたら制服と同じ真新しい黒のローファーに足を突っ込んでドアを開ける。
…と、斜め下から「遅ぇよブス。」憎たらしいセリフを吐くよーく聞き慣れた低い声。
『…零っ!』
そこには、サラサラと心地好い春風にシルバーアッシュの髪を靡かせしゃがみ込んだ零が上目使いであたしを見上げていた。