足跡たどって

「おはようございます!」

遅刻の焦りも感じさせない爽やかな笑顔で挨拶すると、担任の綿貫先生は、大きなため息をついた。

今日は、二度目である。

朝から失礼しちゃう。

「出発三十秒前だ、小糸。」

「ありがとうございます!」

「でも、点呼を取りたいから、五分前に集合だと言ったはずだが。」

綿貫先生の顔は、いつもにこやかなだけに妙な迫力がある。

「明日から・・。」

「一週間罰そうじ。」

今度は、私が、ため息をついた。

「分かってきたじゃないか。」

「そりゃ、もう1.5ヶ月も掃除し続けてますからね。」

「もうそんなにか?記録更新中だな。」

感心したような綿貫先生の声が、しゃくに触る。

これは、いじめじゃないですか。

何か言ってやろうとして、口を開いた時だった。

「綿貫先生。3組は、バスに乗り終わりました。4組もどうぞ。」

声変わり前の男の子特有のちょっとハスキーな声が、背後から聞こえた。

よく知っている声だから、振り向かなくても誰か分かる。

「うん、ありがとさん。」

綿貫先生は、片手を挙げた。

「おはよう、花ちゃん。また、遅刻したんだね。」

恐る恐る振り向くと、一平ちゃんは、にっこり笑った。

幼稚園から友達の一平ちゃんのことが、最近、めっきり苦手になった。

完璧なまでの優等生っぷりも5年生になってから脅威の成長スピードで私を追い抜かしてしまった身長も0.2秒差の100メートル走のタイムも、全部鼻につく。

そんな私の気持ちに気が付いているのか、一平ちゃんの態度もどこか嫌味で・・。

「花ちゃん。それ、わざと?」

一平ちゃんの存在に気がついたクラスの女の子達が、そわそわしながら、こちらを見ている。

「な、何が?」

今日の私は、完璧なはず。

髪の毛だって。

「リュックサックのチャックが、全開だよ。」

・・決めた。

もう一平ちゃんとは、口きかない。

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